2005年12月14日

沖縄の家並みの「原風景」

漆喰瓦屋根のある風景(S型瓦:糸満市)
沖縄の家並みの「原風景」沖縄の家並みの「原風景」
 
 沖縄の家並みの「原風景」って、どのような家並を想像しますか?
と尋ねられると、なんと答えますか?
 

 竹富島のように青空の下、屋敷林と石灰岩の石積みに囲まれた赤瓦屋根が点在する風景を想像する方が多いかもしれません。

 たしかに竹富島の風景は素晴らしく、あわただしく流れる時間が止まったようにほっとさせてくれます。
 でも、私にとっての「原風景」は単純ではありません。
それを説明するにはなまかじりですが、少し前の住宅事情から始めなけれなりません。

  沖縄で赤瓦が一般庶民に本格的に普及したのは、意外に新しくほんの120年ほど前です。それまで一般庶民は赤瓦の使用は禁止されていました。使用を認められていたのは原則として首里士族と那覇の住人、寺社建築等でした。
 それではそれ以外の地域・集落の住宅はどうだったのか?
 実はほとんどすべて萱葺きだったのです。このことは那覇・首里以外のご出身の年配の方々であればよくお分かりだと思います。
 田舎では赤瓦屋根の建物は「番所」だったそうです。今でいえば役場ですね。
ある建築家が本の対談の中で、明治の頃の古い話として、やんばるから那覇に遊びにきた子供が那覇の建物が赤瓦ばっかりだったので、「なんで那覇は番所(役場)ばっかりあるんだろう?」と思った話を紹介していました。

 戦前に写された写真の写真集をみると、本島北部や離島の集落は萱葺き屋根の集落です。
竹富島の集落を写した40年(1960年代)ほど前のモノクロ写真をみると結構萱葺き屋根が残ってるんです。
 とすると、沖縄が全国に誇る、赤瓦屋根が点々と広がるのんびりとした風景はそんなに古くないということになるのです。おそらくの60年前までは今の景観ではなかったと思われます。(間違いがありましたら遠慮なくご指摘ください)

 一般的な沖縄の屋根の作りや葺き方には、まず萱葺き、赤瓦(島瓦、S型瓦)、セメント瓦、トタン、コンクリートがあるのですが、ここ30~40年以降はほとんどがコンクリートで建てられます。

 竹富島の場合は赤瓦が普及する時期が本島より遅れ、一方では廃れつつある赤瓦に対する意識が伝統を重んじる意識と重なることによって、地域文化を大事にする内外の人々に再評価されるようになったのだと思います。
 
 私は漆喰瓦屋根家屋がほとんどなくなっている集落には1軒でもいいから、残してもらいたいものだと思ってます。でも、実は大多数のうちなーんちゅは現実的にはコンクリート屋ーが大好きなんです。
だから、木造瓦屋根住宅は激減し絶滅の危機に瀕しているのです。
 
 それで、私が沖縄の「原風景」に何を考えているのかというと、家のつくりではなくて、そのあらゆるすべての住宅が混在して見渡せる風景、というものです。
 なんですって? よくわからない? そうです私もこんがらがってきました。

 巨大なマンション等が立ち並ぶ地域は論外として、私が勝手に考える「原風景」は、コンクリート住宅、瓦屋根木造住宅、トタンぶき、かやぶき住宅等が混在していてもかまいません。むしろ住宅の変遷を味わうために混在していたほうがいいのです。
 
 屋敷の境界は生垣(ハイビスカス等)、琉球石灰岩、ブロック塀、板塀など家主の好みで区切られており、屋敷への入り口は来客を歓迎する門があり、少し進んだヒンプンはまたそれぞれの好みで石灰岩、木製、竹製、ブロック、生垣などが使われて、福木、ガジュマル、松などの屋敷林がそっとその住宅を囲っている風景なのです。

 60年前まで萱葺き住宅が多かったことと、今の高層マンションの立ち並ぶ那覇、浦添、宜野湾の風景を見まわして50年後のことを想像してみると、景観はさらに激変しているでしょうね。 
 
 50年後には埋め立てや宅地造成で建てられた一戸建てコンクリート住宅の家並みが、レトロで沖縄らしい、なんて思われるかもしれません。


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この記事へのコメント
いまでもかーらやーって建てられるんですかね
このブログを見てるうちに建てたくなってきました。

リンクさせていただきました。
あと、こちらのブログに合いそうなブログがあります。
今日の風景、http://akamata.ti-da.net/

二人の対談なんて、聞いてみたいな〜
Posted by kep at 2005年12月15日 09:38
ご覧いただき、そしてコメントありがとうございます。
瓦屋根だけならコンクリートにも乗っけられ、実際そのような住宅も多いです。しかしそれは本来の瓦屋根の雨風を防ぐという機能とは無縁となっています。断熱の役割と装飾美は残りますが、本来の機能美は失われています。木造瓦屋根が伝統的となりますが、それができる大工さんは高齢になられているか、「絶滅」寸前です。時間をかけて木組みのできる大工さんを探せばいると思いますが、悲しいことにその間にどんどん別世界へ旅だっているでしょう。
「今日の風景」いいですよね、私も見ています。心が和みますし私が探していた風景がそこにある!と感じさせてくれます。
これからもよろしくお願いします。
Posted by 瓦屋根 at 2005年12月15日 17:51
 
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