2012年03月27日

沖縄の赤瓦屋根と柳宗悦

沖縄の赤瓦屋根と「柳宗悦(やなぎむねよし)」って
どういう関係があるばぁ?
と、速攻で質問がきそうだが、まあせっかちにならずに、
すこしつきあって読んでいただきたい。


この仕事をとおして、悲しいというか
非常に残念な思いにかられる事がたびたびあった。

一見して造りのよい木造赤瓦住宅に、
営業で漆喰塗り替えをお願いに伺うと、
「検討する」と返事を頂く。
しばらくして再訪するとその瓦屋根には
ペンキや防水塗装が施されている。

屋根瓦はそれ自体が建物の顔となる。
そのうえにペンキや防水塗装を施すことは、
今風で言えば見た目重視の厚化粧といわざるを得ない。
雨漏りがするのであれば瓦の取替えや漆喰の塗替えなどの
補修を施せばいいのである。

逆に瓦への防水塗装は木造小屋組みを
湿気で腐らせる原因ともなる。
建物の寿命を縮めかねない。
また瓦は本来リユース(リサイクル)できる建材なので、
塗装は瓦を殺す事にもなるのである。

特に築40年以上の木造住宅では、
今では作られていない手づくり瓦が使用されている。
手作り時代の古瓦は、
それ自体で骨董的価値を持っているといってもよい。

個人的に説明の力量が足りないにしても、
沖縄の伝統建築美なんて、
いとも簡単に厚化粧のほうに興味が行く程度にしか
理解されていないのかと、
悲観的な思いにかられてしまう。

私自身は漆喰赤瓦屋根ができあがった
歴史や風土、長所・短所を理解した上で、
赤瓦や漆喰は、
やはりすぐれた建築材だという思いがあった。

その思いが揺らいできたときに出会ったのが
「柳宗悦」の文章である。

この人物の名前は新聞等で見聞きして、
有名な「文化人」という程度で知っていたが、
業績はほとんど知らなかった。
「民芸運動の父」とも称される人物で、
業績等は「日本民藝館」のHPを参考にしていただきたい。

知っている人も多いと思うが、
柳宗悦は早くから沖縄の工芸品や建築に高い評価を与えていた。
たまたまある本で柳宗悦が沖縄の瓦屋根の家並みを絶賛している、
という一文をみつけたので、
その著作を探してみたのである。

あった。
『民藝四十年』(岩波書店)である。
その中に『琉球の富』という論考が収められている。
そこで柳は沖縄の建築、文芸、音楽、舞踊、衣装、
工芸(染物、織物、陶器、彫刻)などにわたり
ひとつひとつ丁寧に根拠を示して賞賛の言葉を掲げている。

その中に「本葺瓦」という項目がある。
いわゆる島瓦(赤瓦)のことをさしているのだが、
柳はそこの最後にこう締めくくっている。
「沖縄の都市の美観はその本葺瓦の屋根に集まるのです。
もしこの屋根が無くなったとしたら、
沖縄はその美しさの大半を失うでしょう」

悲しいかな私が感じていたことを、
柳はすでに70年以上も前に警鐘をならしているのだ。
この文章は1939年(昭和14年)に書かれている。
当時、柳の賞賛した那覇首里の瓦屋根の美観は戦争で
すべて灰燼に帰した。
だからといって、今となっては無意味な言葉だろうか?

今現在でも十分に通用する警鐘だと思う。
戦争による喪失はうちなーんちゅに責任はない。
しかし現役の伝統建築物を生かす努力・責任は
あきらかに今のうちなーんちゅにあるのではないか?

柳はうちなーんちゅ自らの自信をもたない「不必要な卑下」は
しない方がいいと助言している。
しかし、私には一般的な今のうちなーんちゅは、
卑下以前の次元で見た目の華やかさに気をとられ、
伝統建築に対する美意識が衰えてしまっているようにしか感じられない。

コンリート住宅は強度があり台風にも強く、
見た目にもいろいろと工夫ができるので
今のうちなーんちゅが大好きな建築である。

しかしどんなに立派につくってもはたして50年後には
どのていどのコンクリ住宅が残っているのだろうか?

一般のコンクリート住宅は人間の寿命より短い。
一方、木造瓦屋根住宅は大切に使えば世代を超えて
100年単位の使用にも耐えるものだが、
その寿命を果たす以前にどんどん取り壊されている。
多くのうちなーんちゅには天寿をまっとうできなくて
取り壊される伝統的木造瓦屋根住宅の木の叫び、
瓦の悲鳴は聞こえていないのだろう。

「強制退去」扱いの屋敷の神様にはとどまっていただけけるのだろうか?
そういうことも年寄りから忠告されるので形式的には関心は寄せても、
本心からは関心はないのかもしれない。

当然のことながら一県民の個人には出来ることはかぎられているので、
あんまり悲観的になってもしょうがない。
最終的には「なんくるないさ」なのだろうか?

見た目だけにとらわれない感性の取り戻し、
「なんくるないさ」の
一歩先を見通す行動と努力は
必要ではないのか。



沖縄の赤瓦屋根と柳宗悦

以前掲載に手を入れ、再掲載しました。



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この記事へのコメント
赤瓦・・・沖縄を象徴する代表的な文化。
守りたいですよね・・・

沖縄を離れて20年。
度々里帰りしては、島の開発にどんどん文化が壊され、
海は埋め立てられ、田園風景にもコンクリートが敷き詰められていく姿を眺めながら、なんとも空しい気持ちになっていました。

旅番組等では赤瓦を沖縄の象徴とし放送されますが、
実態を知っているものとしてなんだか恥ずかしくなってきます。

今春、放射能汚染された東京を離れ家族3人沖縄へ。
60年前に父が育ての親である曾祖母の為に建てた小さな「カワラヤ~」に
住まわせてもらう事になりました。

おばあが亡くなって38年。以来空き家。
10年くらい前に私と姉家族が里帰りの時にお泊りできるよう
畳を新調、素泊まりのみの改装の為、
これから生活できるよう、
ガスを引いたり台所を設置したり、寝室を一部屋増改装することになりました。

大切な文化財(指定はされていませんが。。。)に住まわせてもらう
使命感に、古き良きモノを愛する旦那様(ないちゃー)と私はワクワク。

理想は瓦屋根を伸ばし木造で増築。

しかし、施工主である父は文化を残す意識は全くなく、
「プレハブかコンクリーで屋根はトタンで伸ばせばいいさ~。」

コストを考え願わず。。。
お金がないわけではないはずなのに・・・。
(私たちは余裕は全くない。。。)

それから何としてでもカワラヤ~で!と
国土交通省やら県庁やら役所やらに助成金を求めたのですが、
たらいまわしにされたあげく、そういう制度はないと・・・。

コンクリートジャングルを走り回る中、わずかに残されたカワラヤーは
ほとんどがペンキで覆われ、呼吸できないまさに厚化粧状態か、
メンテナンスできず朽ちた状態を目の当たりにし、
日本人の
物を大切にする文化は私たち世代から失われたのではなく
高度成長期時代にすでに進行して今や末期となってしまっているんだと実感。 

高度成長期時代を築いた世代の両親宅は使い捨て100均文化に汚染されている始末。

10年前に素泊まり改築されたこのカワラヤ~は
内壁はベニヤと変なパネルが張り付けられているものの、
幸運にも屋根だけは漆喰で改修されていたのでセーフ。

なんとか木造を・・・ローコストで救ってあげられないのか、、、
ただ今試行錯誤しています。。。

瓦屋根さんのお仕事は沖縄を守っていく上で最も重要なお仕事だと
思います。
ただ、これは行政、県をあげて「文化を守る」という体制を整えないと
年金すらもらえるのか解らないご時世、維持することもできず、
絶滅してしまうのではないでしょうか?
Posted by 20世紀ハイツ20世紀ハイツ at 2012年04月24日 17:06
赤瓦・・・沖縄を象徴する代表的な文化。
守りたいですよね・・・

沖縄を離れて20年。
度々里帰りしては、島の開発にどんどん文化が壊され、
海は埋め立てられ、田園風景にもコンクリートが敷き詰められていく姿を眺めながら、なんとも空しい気持ちになっていました。

旅番組等では赤瓦を沖縄の象徴とし放送されますが、
実態を知っているものとしてなんだか恥ずかしくなってきます。

今春、放射能汚染された東京を離れ家族3人沖縄へ。
60年前に父が育ての親である曾祖母の為に建てた小さな「カワラヤ~」に
住まわせてもらう事になりました。

おばあが亡くなって38年。以来空き家。
10年くらい前に私と姉家族が里帰りの時にお泊りできるよう
畳を新調、素泊まりのみの改装の為、
これから生活できるよう、
ガスを引いたり台所を設置したり、寝室を一部屋増改装することになりました。

大切な文化財(指定はされていませんが。。。)に住まわせてもらう
使命感に、古き良きモノを愛する旦那様(ないちゃー)と私はワクワク。

理想は瓦屋根を伸ばし木造で増築。

しかし、施工主である父は文化を残す意識は全くなく、
「プレハブかコンクリーで屋根はトタンで伸ばせばいいさ~。」

コストを考え願わず。。。
お金がないわけではないはずなのに・・・。
(私たちは余裕は全くない。。。)

それから何としてでもカワラヤ~で!と
国土交通省やら県庁やら役所やらに助成金を求めたのですが、
たらいまわしにされたあげく、そういう制度はないと・・・。

コンクリートジャングルを走り回る中、わずかに残されたカワラヤーは
ほとんどがペンキで覆われ、呼吸できないまさに厚化粧状態か、
メンテナンスできず朽ちた状態を目の当たりにし、
日本人の
物を大切にする文化は私たち世代から失われたのではなく
高度成長期時代にすでに進行して今や末期となってしまっているんだと実感。 

高度成長期時代を築いた世代の両親宅は使い捨て100均文化に汚染されている始末。

10年前に素泊まり改築されたこのカワラヤ~は
内壁はベニヤと変なパネルが張り付けられているものの、
幸運にも屋根だけは漆喰で改修されていたのでセーフ。

なんとか木造を・・・ローコストで救ってあげられないのか、、、
ただ今試行錯誤しています。。。

瓦屋根さんのお仕事は沖縄を守っていく上で最も重要なお仕事だと
思います。
ただ、これは行政、県をあげて「文化を守る」という体制を整えないと
年金すらもらえるのか解らないご時世、維持することもできず、
絶滅してしまうのではないでしょうか?
Posted by 20世紀ハイツ20世紀ハイツ at 2012年04月24日 17:06
20世紀ハイツさん、熱いコメントありがとうございます。

>ただ、これは行政、県をあげて「文化を守る」という体制を整えないと
年金すらもらえるのか解らないご時世、維持することもできず、
絶滅してしまうのではないでしょうか?

まったくそのとおりです。
私達は「絶滅危惧職」といっています。

昨年、県議会議長あて陳情書を手交しました。
20世紀ハイツさんがおっしゃっていること「文化を守る」も、
盛り込まれています。
しかしきまったのは、試験制度への補助(100万)くらいです。
あとは審議未了となりました。
6月に県議会は改選されます。
こういうものなのです。

行政への働きでひとつきづいたのは、
あちらは一業者が文化を守るための前向きな発言をしても
聞いたふりをしていながらも、
実際はなにも動かないのです。
「公平性」らしいです。

「景観条例」制定が全国的に各地方自治体でひろがりつつあります。
県は有名な赤瓦住宅の家並みを絶賛した「柳宗悦」の論考を資料にしながらも、
赤瓦の風景はひとつの風景であって、すべてではないというのです。
たしかにそうでしょう。
なら「柳宗悦」の文章は使うな、といいたいのです。

最近のわれわれ仲間内では、
施主や伝統的木造古民家を有する地域住民に
赤瓦施工の技法を積極的に紹介し、連携し
伝統的赤瓦住宅の「目利き」になってもらいたいと
考えています。
このような理解者を少しずつ増やし、
県民ぐるみの動きを作りたいと考えているのです。
そうでないと、保存の機運が高まらないのです。
残念ながら、うちなーんちゅって、そのへんのところには
無関心な方が多いです。

ここではひとつひとつ取り上げられませんが、
課題が山積しています。

長くなりました、これからもよろしくです。
コメント重ねてお礼申し上げます。
ありがとうございます。
Posted by 瓦屋根瓦屋根 at 2012年04月24日 18:35
 
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