消えユク風景

瓦屋根

2006年11月04日 23:38

瓦屋根のチチは、うみあっちー が好きであった。

チチは、瓦屋根が みーちなやー の幼い頃から海へ連れまわしていた。

いまでは畑が宅地となり、海岸は埋め立てられ開発が進んでいる、

豊見城の与根でのことである。

与根は那覇空港近くの瀬長島入り口から糸満に行く途中の地域である。

当時与根は海岸沿いにはまだ塩田の名残もあり、畑にはさとうきびが延々と広がっていた。

のどかな地域であった。

チチは海岸近くの門中墓に自転車を停め、チビ瓦屋根には

「とーちゃんが帰るまでここでまっていなさい!」

といって、海岸へ向かっていった。

干潮前に漁をはじめ、満潮前に引き上げる算段である。

そのまま、数時間がすぎた。

チビ瓦屋根にとっては、これがだんだん恐ろしく長い時間に感じてきた。

自分はほっておかれて、捨てられたと思い始めたのである。

じっとしていられなくなって、自分でうちに帰ろうと、

墓を飛び出し、泣きじゃくりながら、沿道を歩いていた。

ところが、自分が今どこにいるのかさっぱりわからない。

今では幹線道路になっているが、その道が大きくカーブしているところで、

チビ瓦屋根はどの方向に向かおうか迷いながら、泣きじゃくって歩いていた。

軽貨物自動車にのった老夫婦が心配して

「あんた、どこの子ね~?」

と声をかけてきたのは覚えている。

瓦屋根の当時の記憶はそこで途切れている。

かつての風景が開発とともにモザイク状に切れ切れになって行くなかで、

記憶の中の風景はあせたモノクロ写真のようににうすれて行く。


 

関連記事